シニアマーケティングトップ » シニアマーケティング講座 » 第32回 【コンセプト】コンセプトとは何か?

専門は地域組織経営論、戦略論、マーケティング。マーケティング会社にて商品開発・市場開発などを経験。人口減少社会の事業モデルや地域のマーケティングが現在のテーマ。特に地域の中小企業やNPOの戦略策定に関する研究や研修を多数手がけている。

第32回 【コンセプト】コンセプトとは何か?

コンセプトという言葉はよく聞くものですが、皆様はどのようなイメージを持っているでしょうか。「この企画のコンセプトは何か?」「この商品はコンセプトがよい」など、ビジネスの現場でもよく使われている言葉です。おそらく、皆様のイメージのなかでは、「モノやコトなどに込めた意味や想い」というものが近いのではないでしょうか。

もともとコンセプトとは「概念」のことですが、この言葉が含む本質的な意味は、モノやコトの普遍的な意味というよりも、モノやコトをとらえる新しい視点や観点、そして、この視点や観点によってみえてくる因果関係やメカニズムを表しています。社会学者のタルコット・パーソンズは、コンセプトをサーチライトにたとえています。

サーチライトの光というのは、新しい視点であり、その光(=視点)によって、照らされた物事の関係性をコンセプトと考えました。したがって、光によって照らされていない部分もあるわけで、光の当て方によって、みえるものは変わってくることになります。パーソンズのように、世の中のすべてを様々な変数の連関(=システム)として考えた場合、コンセプトは、その一部を切り取るものであり、コンセプトの奥に広がった仕組みや因果関係がシンプルに表現されているということになります。これは、複雑なシステムがひとつの視点によって、統合されているともいえます。

一方、マーケティングにおいても、コンセプトという言葉はよく使われます。嶋口充輝教授は、顧客満足という視点から、マーケティングにおけるコンセプトの意味を、「当該製品や事業がユニークに満たすニーズ」と定義しています。その製品や商品にしか満たすことができないニーズこそ、製品コンセプトや事業コンセプトであるということになります。これは、自社が提供できるものを顧客のニーズへ統合しているともいえます。前回、説明した顧客価値の考え方と同じです。

このように、コンセプトは、ある視点から様々な要素を統合して表現するという役割を演じています。シンプルストラテジーにおいては、顧客のニーズと自社の競争力が統合されるところに「顧客価値」があり、その「顧客価値」と「目指す社会と大切な価値観」という志を統合したところにコンセプトは存在しています(下の図を参照)。つまり、自社が目指す社会像や価値観という視点から、自社が創造する顧客価値を表現するということになります。

e688a6e795a5e381aee6a78be59bb31

コンセプトはシンプルで短い言葉で表現されなくてはいけません。説明的な文章ではコンセプトとはいえません。ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、コンセプトは「キャッチコピー」とは違うということです。広告や宣伝に使えそうなおしゃれで心地よい響きを持った言葉はコンセプトではありません。なぜなら、コンセプトには「意思決定のよりどころ」という大切な役割があるからです。

自分たちの商品や事業をシンプルに表現した言葉があることで、外から入ってくる情報を解釈し、その情報をもとに、意思決定します。したがって、社長やコンサルタントだけがわかるような言葉でなく、社員全員が、また、顧客が、その会社が何を目指し、どんな価値を提供しようとしているかわかるようなものでなくてはなりません。

例えば、よいコンセプトの一例として、「宅急便」があります。いわずと知れたヤマト運輸の主力サービスであり、一般名詞といってもいいぐらいの言葉です。このサービスが生まれたときに、日本には個人向けの荷物運搬サービスは、ほぼ郵便局の「郵便小包」しかありませんでした。

そのなかで、革新的なサービスを表現するために「宅急便」というネーミングを使いました。この言葉には、当時ヤマト運輸が目指したものがすべて表現されています。「宅急便」の「宅」は顧客である個人「宅」にいる主婦を意味し、「急」は、「急ぐ」を意味します。集荷の翌日に荷物を届けるという当時としては考えられないスピードを目指しました。「便」は「便利」を意味しています。郵便小包が、きちんと梱包されていない荷物は集荷しないという方針とは違い、ダンボールや袋に入れた簡易な包装、簡単な伝票記入といったことを実現することや、わかりやすい料金体系で、忙しい主婦の負担を軽減しようとしました。

このように、基本的には個人宅の顧客がより早くより便利に荷物を送ることができる仕組みをヤマト運輸はつくりました。それがあっというまに、人々に受け入れられ、今や私たちにとって、なくてならない社会インフラになったといっても過言ではないでしょう。その後も、ゴルフ宅急便、スキー宅急便、メール便と、次々と新サービスを開発していきましたが、この根底には、このコンセプトが変わらずあったからだといえるでしょう。つまり、「宅急便」という言葉を共有し、それを意思決定によりどころにして、常に会社が行うことを統合させていったのです。

シンプルストラテジーでも、今まで考えてきた様々な要素を統合し、多くの人たちに共有できる言葉にすることで、意思決定によりどころとなります。次回は、具体的にどのようにコンセプトをつくるかを考えていきましょう。

  • Go To Top

  •