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専門は地域組織経営論、戦略論、マーケティング。マーケティング会社にて商品開発・市場開発などを経験。人口減少社会の事業モデルや地域のマーケティングが現在のテーマ。特に地域の中小企業やNPOの戦略策定に関する研究や研修を多数手がけている。

第34回 【事業システム】戦いのフィールドの設定と価値の機能化

このシニアマーケティング講座もいよいよ最終章に入ります。シンプルストラテジーの「どうなるべきか」「どうなりたいか」「どうなれるか」という問いかけは、自社が実現する顧客価値は何なのか、自社は何のために存在するのかを追求するものでした。

次に考えることは、その顧客価値をどのように具体的な形で生み出し、顧客に届けて、自社がその事業を持続できる利益を生み出す仕組みをつくるかということになります。これを事業システムと呼びます。経営学では、ビジネスモデルやビジネスシステム、またはヴァリューチェーンといった、似たような言葉があります。それぞれの強調するところは違うものの、こういったものが、顧客価値と利益の創出方法にかかわるものだという点では一致しています。本講座では、あまりそういった学問的な差異にこだわらず、どうしたら、そういった仕組みをつくることができるか、実践的な視点から考えていきたいと思います。

まず大事なのは、自社が取り組むシニア向け事業や商品を、どのような市場に位置づけるかという視点です。競争相手や競合する商品は何になるかという、自社が戦うフィールドを設定することです。これは、この講座の第20回第22回で、「戦略の構図2」を検討するなかで解説してきました。「戦いのフィールド」を自社の業界や既存のユーザーから考えるのではなく、顧客価値から考えることで、その商品が戦うことになる敵を設定します。

例えば、シニア向けのマッサージというサービスを、「心身のリフレッシュ」という顧客価値でとらえるか、「マッサージ師とのコミュニケーション」という顧客価値でとらえるかでは、戦う相手、競合するサービスは変わってくるはずです。

そのうえで、顧客価値に対応する形で、その商品で提供できる機能をいくつもあげてみましょう。前回、紹介したNTTドコモの「らくらくホン」の事例でもう一度考えてみます。

「らくらくホン」は、シニアという顧客層に対して、「誰にも利用することができるユニバーサルデザインの携帯電話」という位置づけで「戦いのフィールド」を設定しています。シニア向けの商品としてだけでなく、誰にでも使える携帯電話として「見やすさ」「使いやすさ」「安心」など「人にやさしい」という顧客価値を実現するために様々な機能上の工夫がされています。

周囲が騒がしい環境でも、相手の音声を聞きやすくする「はっきりボイス」という機能は、カーレースのフォーミュラニッポンのチームでドライバーとピットの連絡用として使われているくらいです。「見やすさ」の価値だけでも、大きな文字での表示、そのための横に広い特別な液晶画面、カメラを利用した拡大鏡の機能、フォントの線の形や方向などの工夫など、シニアの視力低下に対応できる、今までの携帯電話にはなかった機能を搭載しています。

このように顧客価値を商品の機能、サービスの要素などに落とし込んでいくことで、供給側の論理で、使われない機能をつめこんだ商品にならないようにします。さらにここで大事なのは、そのような機能を、競合商品との関係のなかで、大胆に絞り込んだり、一部を徹底的に深化させたりすることで、商品としての差別化を図るだけでなく、「戦いのフィールド」をより明確化します。

「らくらくホン」が初期の段階で、先の顧客価値に徹底的にこだわり、通話やメール機能だけに特化したのは、デザインやカメラ機能、インターネット機能などを様々な機能がどんどん付加されていく「多機能型の携帯電話」という「戦いのフィールド」には、自分は参加しないという宣言であり、顧客であるシニアに対して、この商品が提供する価値は、あなたたち向けのものであることをわかりやすく伝えるメッセージだったのです。これは単純に差別化のレベルではなく、商品の思想、企業の志を伝えるものになるのです。

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