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専門は地域組織経営論、戦略論、マーケティング。マーケティング会社にて商品開発・市場開発などを経験。人口減少社会の事業モデルや地域のマーケティングが現在のテーマ。特に地域の中小企業やNPOの戦略策定に関する研究や研修を多数手がけている。

第35回 【事業システム】成功の法則をつくる

事業システムは、自社が実現する顧客価値を、具体的な形で生み出す仕組みのことです。ここでのポイントは、顧客はどのように、それを手に入れることができるかと、いかにその仕組みを持続可能な形で実現できるかです。その前提として、前回では、その商品がどの「世界」に属するかを決める「戦いのフィールド」の設定について考えてきました。

「戦いのフィールド」は自社がどの市場で戦っていくかを決めていくことで、既存の業界や産業の分類にこだわる必要はありません。競合との関係で、商品を位置付けるのではなく、自社の志や顧客価値から、その商品が存在しようとする「世界」を考えるのです。

次に考えなくてはならないのは、その「戦いのフィールド」における「成功の法則」です。その「世界」においては、どのように自社がふるまうことが、顧客に受け入れてもらえて、自社がきちんと利益をあげることができるかのルールを設定することです。

事例で考えてみましょう。このような事業開発やマーケティングの事例として、私が常に良い事例として紹介するのが「宅急便」です。1970年代当時、海外に似たサービスはありましたが、日本におけるイノベーションであり、今や社会インフラといってもいい商品でもあります。

当時、ヤマト運輸の主な「戦いのフィールド」は、企業から出る荷物を運ぶ仕事が主流でした。例えば、工場でできた製品を次の拠点に運ぶような仕事です。「商業貨物市場」というフィールドです。この世界でのヤマトは、後発であり、自分でビジネスのルールをつくれるような立場にありませんでした。そのなかで、その状況を打破するために、別のフィールドに移ることを決意します。それが家庭から出る荷物を扱う「個人宅配市場」です。しかし、このフィールドに移ることは大変なリスクが伴うことでもありました。当時のトラック業者は、ほとんどこのフィールドに行こうとしませんでした。大きな理由として2つあります。

ひとつは、採算がとれないという点です。「商業貨物市場」においては、荷物は、たくさんのものを、定期的に、同じ場所に運ぶものでした。工場から出荷するものをイメージすればわかるとおり、製造された製品は、大量で、いつできあがるかも決まっており、製品を運ぶ場所も同じであることが多いと思います。少なくとも事前に決まっているはずです。一方、家庭から出る荷物というのは、少なく、偶発的で、どける場所もまちまちです。いつ、どこに、どれくらい運ぶかわからない荷物を集めて、運ぶ仕組みを採算がとれるようにするのは大変難しいとどの業者も考えていました。

もうひとつの理由は、このフィールドには、大きくて太刀打ちができない敵がいたという点です。それが郵便局です。当時、個人の小口の荷物は、ほぼ郵便局の「郵便小包」が独占していました。ところが、この郵便小包は、顧客からすると、決して使い勝手のよいものではありませんでした。かならず、郵便局に荷物を持っていかなければいけませんし、梱包もきちんとしていないと扱ってもらえませんでした。荷物も送ってから相手に届くまで何日もかかりました。生活者にとって、荷物を送ることは、時間がかかって面倒なものというのが、当たり前だったのです。

ヤマトはそのようなフィールドにおいて、新しいルールをつくり、顧客たちが持っている常識を覆していきます。また、そのようなことがちゃんと採算に乗るような仕組みをつくりあげていくのです。

ひとつは、徹底した顧客志向によるサービスの差別化です。家庭の主婦を顧客として設定したヤマトは、なるべく簡単に早く荷物を届けるということを顧客価値として考え、サービスレベルを考えていきました。どの地域であっても、集荷の次の日に荷物を届けるということ、料金計算を複雑にせず、地域とサイズによって、均一料金にすること、厳重な梱包をしなくても送ることができるようにすること、ひとつの荷物であっても、家庭に集荷に行くことなど、郵便小包が常識になっていた世界において、驚くようなサービスを展開していきます。そこには、常に家庭の主婦にわかりやすく便利に感じるという方針が貫かれていました。これは、顧客に受け入れられてもらう「成功の法則」です。

一方、偶発的に生まれる集荷のニーズに対し、なるべく1台の車に乗せる荷物の密度を高めて、効率的な輸送ができるようにすることも徹底的に考えられていきました。鳥瞰的な視点からみえれば、かならずあるだろう、ある地域からある地域への小さな荷物の流れ(例えば、東京から大阪に向かう家庭からの荷物群)をいかに集めるかが、宅急便の成功のカギを握っていました。そこで、各家庭に集荷に行くだけではなく、気軽に荷物を出しに行ける拠点を近所につくり、そこから、さらに大きな拠点に移し、さらにそれを大きな拠点に輸送していく仕組みをつくりました。

B(ベース)-C(センター)-D(デポ)ネットワークという集配ネットワークは、全国規模の荷物のやり取りを可能する仕組みでした。また、地域の酒屋さんや米屋さんを荷物の取次店として、このネットワークに組み入れることで、宅急便のネットワークは、地域の隅々までつながっていくことになります。こういった仕組みをつくりあげることで、採算がとれないと思われていた「戦いのフィールド」に新しいルールを生み出すことに成功しました。これは、商品が持続可能なものになるための「成功の法則」です。

このように、2つの側面からの「成功の法則」を見出していくことが必要になります。

さて、こうして、「戦略の構図(最終)」の⑧戦いのフィールドと成功の法則が埋まることになります。⑨事業・商品の内容は、具体的な商品の内容や仕様を書いてください。お気づきの方も多いと思いますが、この⑧と⑨は、マーケティングの教科書的な言葉でいえば、⑧は標的市場の設定と、マーケティングの4Pのうち、流通(place)、プロモーション(promotion)、⑨は、製品(product)、価格(price)にあてはまるところといえるでしょう。大事なことは、いかにこの一般的なマーケティングプロセスにたどり着くまでにやることが多いということを実感していただくことだと考えています。

さて、いよいよ次回が最終回となります。戦略の構図を完成させて、今までのまとめをしましょう。

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