専門は地域組織経営論、戦略論、マーケティング。マーケティング会社にて商品開発・市場開発などを経験。人口減少社会の事業モデルや地域のマーケティングが現在のテーマ。特に地域の中小企業やNPOの戦略策定に関する研究や研修を多数手がけている。

第36回 シニアマーケティングという社会的挑戦 (05/29)

2009年から始まった、この「シニアマーケティング講座」も今回が最終回です。まずは「戦略の構図(最終)」を完成させましょう。

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コンセプトを実現する事業システムは、顧客価値を具体的に生み出す仕組みでした。顧客はどのようにその価値を得ることができるのか、その内容と方法を記述したのが、⑨事業・商品の内容と⑧戦いのフィールドと成功の法則でした。その上で、その仕組みを実現する上で、必要な資源をまとめるのが⑩になります。具体的には自社だけではできない部分を担う提携先がどこか、実現するために必要な金銭的な投資、社内組織の体制などを記述してください。これらを最後にまとめることで、この図が完成したあとに取り掛かるべき仕事がみえてくるはずです。

以上で、戦略の構図が完成しました。もちろん、完成したからといって、終わりではありません。この図をつくりながら、実践し、小さなトライアンドエラーを重ねていくことが必要です。現実は、自分が思う以上に早く変化していきます。昨日書いたことが、今日、あてはまらなくなることがあるのです。シンプルストラテジーの本質は、常に全体像をみながら、更新していくという「動き」そのものにあります。ダンスが、動いていなければ、ダンスにみえないように、シニアマーケティングも戦略構築も、実践がなければ、成り立たないものなのです。月1回の講座ということもあって、36回という「階段」をのぼる間に3年の月日が流れました。その間に、シニアマーケティングを取り巻く環境は大きく変化したと感じています。一言で表現すれば、国内の大手企業が本格的にシニアマーケットに進出するべく動き出した3年間だったといえます。どの分野においても国内市場の成長が望めず、唯一の希望の光がシニアだったというわけです。一方で、多くの企業が、シニアマーケットへのアプローチの仕方がわからず、失敗する商品や事業を山積みにするか、結局、躊躇して、このマーケットへの挑戦をあきらめることになったのです。今でもこの状況は変わっていません。

こうなってしまった原因にはいくつか考えることができます。ひとつは、シニアマーケットをマスマーケティング時代と同じように、「塊」としてみてしまったことです。数が多く、消費力があって、消費性向がわかりやすい(と思い込んだ)シニアが存在しているかのようにマーケティングしてしまったという点です。シニアマーケティングは、シニアというセグメントへのアプローチではなく、「日本という人口減少社会における新しい生活戦略づくり支援」のあり方を考えることなのです。このあたりは、講座の第2~4回を再度読んでみてください。

もうひとつは、マーケティングに深い志や思想がなかったという点です。もちろん企業のやるべきことが、社会貢献とは思いません。あくまでも、本業を継続することで、社会を変えていくことが企業のやるべきことだと考えます。ただ、目の前の数字に追われて、今までと同じように、事業開発や商品開発に取り組んだところで、もともと縮小する国内市場で成功するのは、並大抵のことではありません。そこには、ある程度覚悟のようなものが必要になります。このような話は残念ながら、トップのコミットがなければなかなか進まないのが現実だといえます。

最後は、2つ目に関連しますが、企業がトライアンドエラーをしなくなってしまったという点です。企業が企業たる所以は、挑戦にあります。リスクをとって、今まで誰もやったことがない新しいことに挑戦することが、企業の使命です。これは基本的に利益を生み出さない行政やNPOにはなかなかできることではありません。利益は、挑戦のための原資なのです。新しいマーケティングに挑戦する姿勢と予算、そして、その評価基準を持っていないことが、日本企業を停滞に追い込んでいるのではないでしょうか。

シニアマーケティングという活動は、不透明な未来に向かって、新しい人間像や生活像をつくりだす「社会的な挑戦」なのです。まずは勇気を持って、この取り組みに飛び込んでほしいと思います。その勇気が、自社の未来を創造していくことになります。

最後に、長い期間、この講座をご愛読いただきありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。

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